粘菌の知恵。「単細胞!」と呼ばれたら、たいがいの人は(とりわけ中年男が若い女性にそう呼ばれたら)ガックリ来そうだが、そのうちに「ある種の誉め言葉」になりそうだ。1月28日朝日新聞朝刊で「粘菌 単細胞でも賢い」との記事に触れ、一念発起した。
粘菌、またの名を「変形菌」と呼ばれる単細胞の驚異的な能力にかねてから興味を抱いてきた。だがこのたび、そのさらなる驚異的な能力を証明してみせ、イグノーベル賞を受賞した日本人が2人も出ていたことを知ってビックリした。かねがね、庭仕事をしていて驚かされてきたこと(脳を持たない植物が「どうして」と不思議な気持ちにさせられたこと)があるが、このたびの賢い粘菌の記事に触れ、膝を打つ思いがした。
2008年に北大の中垣俊之教授は、英科学誌ネイチャーに粘菌の驚くべき能力の一端を紹介し、イグノーベル賞を受賞した。「迷路」の入口と出口にエサを置くと、粘菌は半日ほどで最短距離をつなぐ、ということを発見した。
その2年後に、公立はこだて未来大学の高木浩二准教授は、アメリカのサイエンス誌で粘菌のさらに驚異的な能力を証明してみせた。
人間がこの真似をしようとすれば相当大がかりなコンピューターを駆使しなければ成し得ないという。「単細胞が、どうして」と驚かされたが、フィトンチッドの存在を知って膝を打った時のことを思い出した。
私は無農薬有機栽培で野菜を18歳から育て始め、折々に不思議な体験をしていたが、フィトンチッドの存在とその働きを知り得た時に、積年の疑問の1つが氷解した。それまでは昆虫(動物)の知恵がなせる業(襲う野菜を選別し、宿巣である野菜を絶やさないようにしている)と思っていたが、逆だった。野菜(脳がない植物)がそう仕向けていたわけだ。
その後、「“野菜”と“野草”の種」の決定的な智慧の差のごとき差異を思い知らされている。それはどうしてか、との疑問はまだ晴れていない。このたびは(ハッピー事件もあったことだし)「野生は強い」との想いの追認でもあった。かねてから、野菜より野草のほうが逞しいことを私は経験的に知っていたが、単細胞である粘菌の方がはるかに賢こくて逞しいのではないかと思わせられ、とても楽しい。