郵便局にお勤めだった久保田さんにデンマークで知った「プライオリティ」を話題に出した。実はデンマークで幾枚かの礼状や無沙汰のハガキをしたためので、澤渡さん(のお宅に招かれた折)に投函の相談をした。返事は(ポストはないし、切手代が30クローネ約480円もかかるから)「持て帰って日本で投函した方が」賢明、と助言された。
その3日後から逗留したカイさんのお宅で、この件を思い出した。郵政は国際協定があるはずだから30クローネは(日本から出した場合の)5倍以上と不釣り合いだし、何か事情があるに違いない、と思って質問した。「案の定だった」。
なにせ私の英語力だ。「切手はどこで買えますか」という質問から入ると「ここで」との意外な返事がかえて来た。促されるままに10枚ほどのハガキをとり出すと、私の手から取り上げ、後に続くように促した。導かれた奥の部屋でビックリした。広い1部屋が切手コレクションの部屋であった。カイさんは郵政にも関わった時代があったようだ。
居間に戻ると、彼はペタペタと切手を張り始めた。1枚当たり合計すると30クローネだった。さらに、それぞれに1枚ずつシールを取り出し、私が朱でエアーメイルと記した上に張り付けた。そのシールにはプライオリティ(優先)と印刷されていた。
デンマークだけでなく、スエーデンにも郵便局はなく、両国が合同で郵便事業に携わる組織を1つ作っており、ポストもないようだ。ネット社会になり、郵便を使う人が激減したという。私のハガキはこの日、市街地に出かけた折に、ある小売店に立ち寄り、預けられた。
「流石はデンマーク」日本の未来のありようを示唆しているに違いない、と思った。50年ほど前までは、アメリカに行くたびに、これが日本の未来の姿、と見たものだ。と同様に、これからの望ましき未来の姿は、デンマークなど北欧のありように学べばよいのではないか。18年ほど前から、アメリカ型工業社会は「生活の営みを疎かにさせる装置」と見て取り、出掛けもしなくなった。もっとも日本は、国家としては当分変われまいが、個々に国民はデンマークなど北欧の在り方を見習うべきだと思う。それが貧富格差の渦に巻き込まれ、貧せずに済ます確かな手立てだろう。
私のハガキは切手代が1枚約450円だったが、私と相前後して日本の当て先に届いていたようだ。帰宅早々に礼の電話をもらった。
急ぎ、このカップルから過去に頂いた郵便物を取り出し、その切手を確かめた。『未来が微笑み欠ける生き方』の返礼としてチョコレートなどが送られてきた封筒だが、1008クローネ(約1300)の切手が貼ってあり、これも「なるほど!」だった。