往年並みに立ちまわれそう。朝、歯を磨いている時にポロッと、大事な歯(部分入れ歯を留める挿し歯)がとれた。「さあ大変」。無理やりの予約を頼み込み、それがかないそうになった。「さて書斎に」と腰を上げたときのことだった。とても大事な作文案件の相談事が舞い込んだ。願ってもない案件だった。しかも、翌日までに「しあげなくては」との締め切り条件が付いていた。
片や、歯という形ある、しかも完結が分かり易いが、やむなき事態。片や、願ってもない作文という案件。これは、形があってないだけに、限りがなく、のめり込みたい。のめり込んで、得心の形にしたい。
なぜか私は、この2つに「生」の対極を実感し、ジックリと腰を据えよう、と身構えた。
この日は、終日雨が降る、との予報であった。翌日も曇天、時々雨が降りそう、だった。約束ごとはいくつかの来客だけ。久しぶりに書斎にこもり、来客を「お茶の時間に」と、と目論んだ。ところがそこに、予期せぬ「生」の対極が生じたわけだ。
歯科医には「なんとか」と思ってもらえたようで、翌日だった予定が「今から30分後なら」割り込めそう、と電話があった。急に私の幸せのテンションが上がった。
このようなテンションの上がり方がすると、私のお尻はいつもモゾモゾして、ジックリと腰を据えられなくなる。この日もモゾモゾした。だがやけに力がこもる。「シメシメ」と、心の中でよろこんだ。気が付くと、雨が止んでいた。
庭に飛び出した。たとえ5分であれ、10分であれ、庭仕事は目に見えてはかどる。最も断続的に取り組めるテーマ、を選んだ。大小2つの植木バサミとナタ。3つの手道具をそろえ、囲炉裏場に急ぎ、剪定クズの解体に取り組んだ。
学生との焼き芋の日が迫っていた。その焚き火に用いる木くずと、風呂焚きの燃料に二分し始めた。ナタを振るい、植木バサミを操っていると、除草の場合と同じぐらい、アタマは巡り、冴える。とりわけ、歯科医から戻ってからの冴えようは、我ながら嬉しかった。それは、相談事を、単なる相談ではなく、模範例を造った上での相談にしてもらえたおかげだった。
ケイタイだけでは用が足せず、PCまで急ぐ要があったし、考え合う時間も設けられた。幾度となくPCと、囲炉裏場の間を往復した。歩いている間、ハサミで木を切った時、ナタで落した瞬間、こうした度に、奇妙に私は良き運に恵まれる。ヒラメキを得るだけでなく、PCの時にはしぐれ、上がったと見て飛び出し、雨が降り出すまでにヒラメキを名案にまで育て上がっていることが多い。
良き2日間になった。2日目は、書斎に陣取ることもできた。光と採りを天窓にしておいてヨカッタ。明かりだけでなく、時の移ろいも取り込める。
歯は治ったし、文案も「これなら」というセンにたどり着いた。その合間を活かし、山のような剪定くずが2分された、
まだしばらく「いけそうだ」